正直、どこに上げるべきか悩みましてね? 
自創作のくくりに入れてしまおう! という事で、自創作のブログに上げてしまいます!
この作品はもともと、以前企画でお世話になってつながった氷華さんがネタというか、何かをこぼしておりまして。
それを受けて私が文をしたためた、というものです。
これで、大丈夫かしら…?
「男装すると男前な女子とへたれ気味な男子。女の子の格好の時はへたれ男子は顔真っ赤にしてまともに話せない。なおかつ、へたれ男子は男装女子に気が付いていない」
から、こんなものが出来上がりました。
興味がある方はどうぞ!
				
	 
	I will ROCK your heart
	 
	 
	 工藤光(ひかり)は背負っているギターを揺すり上げた。これから自分が所属するバンドのミニライブがある。小さな場所でも、ライブを行えることに感謝しなくては、と思いながら足を進めた。
	 帽子をかぶり、ちょっと硬めの生地のジャケットを羽織る。ジャケットの中にはインナーとしてポップなTシャツを着て、合わせるのはジーンズ一択。それが光がステージに立つときのスタイルだ。そして、光はHIKARUとなる。
	 
	 ―ステージの上では、男を装う。
	 
	 それが、工藤光だった。
	 
	「よ、HIKARU!」
	「ああ、TAKESHI」
	 バンド活動中は常に男を装っている光は、HIKARUと呼ばれると声を気持ち低くする癖がついていた。もともとアルトの音域の声なのだ、十分ごかませている。特に、このバンドのボーカルTAKESHI、もとい、山田剛は。光と同じ高校、それも同じクラスにいるのに、なぜ気が付かないのか。ほとほと疑問には思っているのだが、気付いていないならそれで良い、と思うようにしていた。
	「今日もよろしくな!」
	「お前がトチ狂わなければ大丈夫だろ?」
	「なんだよ、毎回俺が失敗してるようないい方してさ」
	「実際、ライブ失敗する理由の8割はお前がこしらえてる」
	 剛が肩に腕を回してきたのでそのままの状態で歩きながら、光は内心ため息をついた。ドジを踏むというか、思い切りが悪いというか。ここ一番でいろいろなものをダメにする天才ではないか、と思えるのが彼だった。
	 
	「今回は失敗しねーって! 大丈夫だ!」
	「せいぜいがんばれよ」
	 ぽんぽん、と背中をたたいてやれば、剛は大きく頷いた。
	「もちろんだぜ!」
	 にかり、と笑いながら返した特上の笑顔に、光ははぁ、と再び内心ため息をつく。見た目は良いのに、全てが出来る男なんていないよな、と。
	 
	◇
	 
	「TAKESHI、また張り切ってるな」
	「だろ、SHO? 窘めてくれよ」
	「HIKARUがもう言ってんだろ? じゃあおれ達の誰が行っても変わらね―な」
	「MITSURUまで」
	 
	 バンドのベーシスト、SHOこと松本翔は控室で張り切る剛を見て光に声を掛けた。ギター雑誌をぺらりぺらり、と眺めていた光は剛を一瞥すると、その視線をまた雑誌に戻して翔に対してこぼす。飲み物を飲みながら見ていたドラマーのMITSURUこと木村充はペットボトルから口を離して投げやりに言い放った。光は反論すらせず、げんなりと答える。もはや、見慣れた控え室の風景だ。
	 
	「それにしても、TAKESHIはいつまで気が付かないのかね」
	「俺はこのまま卒業するまで気が付かないに一票」
	「はぁ!?」
	「おれはプロになるまで気づかない、に一票」
	「何言ってんだよ、お前ら」
	「「HIKARUは?」」
	 2人は光が本来の性別を偽ってこのバンドに所属しているのを知っている。帽子で隠した髪の毛のうなじがちりり、とした気がした。2人がハモって聞いてくる。それに対してHIKARUは、小さく答えた。
	「んなもん、ずっと気づかないに一票だろ」
	 
	「何の話してるんだよ? もしかして、俺はぶられてる!?」
	「んなことねーって」
	「今日のステージはどうなるかって話だ」
	自分以外が談笑している事に気がついた剛が3人に詰め寄った。ひらりひらり、と手を振りながら適当に否定する充に、翔は気の利いた話題転換をする。光はつまらなそうに眺めていた雑誌に視線を戻した。
	「今日のステージも最高にしようと思ってるぜ」
	力強く言い切った剛に、光は隠しもせずに呟いた。
	「それが一番心配なんだって...」
	 
	◇
	 
	 キュイーン
	「Are you with me?」
	 イエーーーーース!
	 
	 ステージから見下ろすフロアは熱狂の渦の中にあった。まだまだ名の知れていない光の所属するバンドだが、地元の中学生や高校生には身近で手軽にライブを楽しめる、ということでそれなりに指示を集めている。メンバー全員が高校生で、なおかつ土日にだけライブ活動を行っていることもあるだろう。
	 
	 光のギターを合図に剛の声がライブハウスに木霊した。それにフロアの声も重なる。
	「今日は来てくれてサンキューな! 楽しんで行ってくれ!」
	 そのフロアの様子に剛は叫ぶと、充のドラムステッキが音を立てた。
	 
	カッカッカッ
	「♪ 飛び出し、走り出す! おれたちはー!」
	「「いつでも、」」
	「Rockin' your heart !」
	 
	 剛のヴォーカルに光の声が重なり、コーラスになる。翔の前にもマイクがあり、ダブルコーラスやダブルボーカルになる曲もあった。
	 “型破りでもなんでもいい、出来ることをやる”
	 それがこのバンドのポリシーだ。
	 
	 剛の声で、それまでいろいろなざわめきを醸し出していたフロアがまとまる。剛の声には、それだけの声量と人の注意を引き寄せる何か、があった。
	 
	 剛の声に合わせるように奏でられる光と翔のメロディーとコーラス。充の全てを支えるようなドラムビート。この日も特に問題はなく、ライブは終わるかと思われた。
	 
	 が。
	 
	 ガッ 
	 キーーン
	 
	 ステージ上のけたたましい音と共にマイクスタンドが倒れる。それも、ヴォーカルである剛のマイクが。
	 シーンと静まりかえるフロア。等の本人である剛は固まり、翔と充も動けない。ざわざわとフロアの人が囁き始めた時、澄んだ弦の音がライブハウスに響いた。
	 
	 ジャン シャカシャカ...
	 
	 それは、光のギターの音だった。
	「みんな悪いな。興奮しすぎた音が暴走したみたいだ」
	 ギターをかき鳴らしながら自分の前にあるマイクに言葉をのせて、ちょっと不思議な表現で剛をフォローする。
	「絶好調だったところに悪りぃけど、暴れた音を落ち着かせるから、スローテンポに切り換えるな」
	 言い終わると共にギターはいくぶんゆっくりとしたリズムを刻み始め、ステージの照明も心なしか落とされる。この曲は、光と翔のダブルボーカル曲。充はドラムステッキを置くと、まだ固まっていた剛の横に来た。
	「ほら、行くぞ」
	 素早くマイクスタンドを元に戻すと、剛を促してステージ横に移動した。その間、光はイントロの部分をひたすらループさせる。二人がステージから降りたのを確認すると、翔のベースが加わり、曲が始まった。
	 
	 
	「また、やっちまった...」
	 翔と光の演奏を聞きながら剛は小さく、呟いた。空回りして失敗するのは自分のせいなのに。結局、迷惑をかけて光にフォローさせてしまう。
	「ほーら、切り換えろ。二人が時間を稼いでくれてんだ。お前が歌わないで、誰が歌うんだよ? 」
	 そんな剛を充が諭す。まだ2曲、歌う予定があるのだ。それで挽回しろ、と暗に伝えた。
	 
	 いかにとっさの事に弱くても、プロを目指しているのは自分たちだ。剛はきゅっと握りこぶしを作ると、前を向いた。
	「ああ、そうだな」
	 にかり、と笑顔をつくって見せた剛に頷きながら、充もステージ上の光と翔を見た。その絶妙な光のフォローに、礼を言わないといけないな、と考えながら。
	 
	 
	 思考を切り換えた剛と共に充もステージに戻り、残りのライブは剛のミスなど無かったかのような熱狂に包まれたまま、幕を閉じた。
	 
	◇
	 
	「光ー! おはよー」
	「おはよ、舞ちゃん」
	「ねぇねぇ、昨日の山田くんたちのライブ見た?」
	「え、昨日?」
	 
	 翌日、登校すると友人たちは昨日のライブの話で持ちきりだった。ツインテールに大きめのカーディガンを合わせた光は、控えめな印象を醸し出す。落ち着いた声色で聞き返すと、舞と呼ばれた少女は大きく頷いた。
	「これでもファンクラブに所属してるから、ライブ情報は確かなのよ?」
	 ふふん、と胸を張る友人は光=HIKARUだと知りながらも特に周りにばらすことは無かった。むしろ時間を惜しまずに協力してくれる、とても大切な友人だった。
	「そうだったね」
	 ふわり、とおしとやかに微笑めば、クラスの男子数名がため息をついた。光は内心、ため息をつく。光=HIKARUがばれないように男勝りな性格を隠蔽しているのだが、それが逆効果だったのではないか、と真剣に思っていた。
	「それで、舞ちゃん。何かあったの?」
	 話題を戻すために光は舞に話を振った。
	「そうそう。山田くんがね、マイクスタンド倒しちゃって、フロア中がシーンとしてさ」
	 
	 ガタガタッ バタン 
	 どさぁ
	 
	 舞が言うと共に、剛が座っていた椅子から転げ落ちた。もちろん、舞は承知の上で話を振っている。
	「お前、またかよ」
	「らしい、っちゃらしいけどよ」
	 
	 舞のライブ情報の性格さには、クラスメートたち全員が一目を置いている。つまり、彼女に知られた時点でクラス中、下手したら学校中に知れ渡るのだ。
	 自分の周りに集まる友人たちにも茶化され、剛は必死に弁解する。
	 
	「ヒ、ヒートアップしちまって、うっかりスタンドに足かけちまったんだよ!」
	「うっかり、で足かけるなって」
	「お前のせいでバンドがいまだに評価が低いんじゃね?」
	 なかなか手厳しい言葉に、剛は少々うつむき加減になった。
	 
	「でもね、それをHIKARUくんがかっこよくフォローしたの! ほんと、男前って、彼みたいな人を言うのね」
	「そうなの? フォローって、どんな?」
	 
	 舞がにこやかにHIKARUの事を口にすれば、光も合わせる。今の自分はライブのことなど全く知らない舞の友人で、舞からライブの情報を教えてもらっている、という立場だ。当の本人なのは舞も知っているが、クラスの中で怪しまれずにやり過ごす作戦として、よくこの流れを使っていた。
	「何だっけ? 『興奮しすぎた音が暴走したみたいだ』だっけ、山田くん?」
	「お、俺に振るか!?このタイミングで?!」
	 確認するように剛に話をふる舞に、剛は本気でうろたえた。光が、静かな興味をたたえた瞳で、剛の事を見つめる。
	「だって、あんまり覚えてないんだもん。確認するならその場にいた山田くんぐらいしか……」
	「ああ、そうだよ、HIKARUはかっこよく俺をフォローしてくれたよ」
	 若干不機嫌になりながらぶすり、と言い放てば、光はくすり、と笑った。
	「山田君、HIKARU君によくフォローしてもらってるね」
	 クラスの高嶺の花と言っても過言ではない光がきれいに笑うと、剛の顔は目に見えて赤くなった。
	「あ、いや、ほら。えっと、あいつにフォローが必要な時は俺もするし、えっと」
	「剛、お前分かりやすすぎ」
	「……落ち着けよ、山田」
	「あああ、でも、俺の方が迷惑かけまくってるよな。えっと、でも、あの、ほら」
	 
	 周囲の茶化し声も耳に入らないほどうろたえる剛に、光は椅子から立ち上がると剛の元に向かった。
	「ええええっと、く、工藤さん!?」
	「山田君はいつも一生懸命なんだね」
	 会話をしながら倒した椅子を元に戻していた剛は至近距離で光に見つめられてそのまま一歩後ずさった。
	「……山田君?」
	「う、えっと、く、工藤さん、ごめん!」
	 
	 真っ赤な顔でそう言うと、脱兎のごとく教室を走りだした。その様子に周囲は苦笑いをこぼす。
	「逃げたな」
	「逃げたわね、山田くん」
	「おれ、おもしれーからあいつの事追いかけてみるわ」
	「おーう、報告よろしくな」
	 ともに話していたうちの一人の男子がそういうと教室を後にする。その様子をきょとり、と見つめた光は舞を見た。
	「私、何かやっちゃった、かな?」
	「光はぜーんぜん悪くないわ。あれは山田くんが悪い」
	「そうなの?」
	「そうそう。工藤さんは工藤さんのままでいてください。……その方が俺達が面白いから」
	 さらりと友人を売る発言をこぼす男子学生に、「さすが、わかってるじゃない」と相槌を打つ舞。そんな2人を意味が分からないという表情で首をかしげた光は、内心盛大なため息をついた。
	 
	“剛が俺の正体に気付くことなんて、ホントに一生無いんじゃねーの? ま、みんなが楽しいみたいだから、いいけどさ”
	
	 
	 
[0回]
PR